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四津 良平 先生(医師、東京都、慶應義塾大学病院) スミス・沢・ヤンミー さん(宇都宮在住) |
韓国出身のスミス・沢・ヤンミーさんは、英国在住中に知り合い結婚したご主人と共に、2001年に来日。一人娘である純美英(すみえ)ちゃんの子育てに忙しい毎日を送っていた。
ところが2003年の秋、健康診断がきっかけで『僧帽弁狭窄兼閉鎖不全』であることが判明。地元の病院の医師から紹介され、スミス・沢さんは慶應義塾大学病院心臓血管外科の四津良平先生の治療を受けることとなった。
スミス・沢 主人の会社の健康診断でレントゲンを撮り、心臓が肥大していることがわかったため、家の近くの病院で精密検査を受けたんです。心臓のカテーテル検査の結果、『心臓弁膜症』と診断され、大変ショックを受けました。幼い頃リウマチ熱にかかったことが原因だそうです。自分では病気だという自覚はまったくなかったので、とにかく驚きました。
四津 病気であるという自覚はなかったとのことですが、それまで体調は悪くなかったのですか?
スミス・沢 少し疲れやすいということと動悸があることは感じていたのですが、まさか病気だとは思っていませんでした
四津 弁膜症の主な症状は、少し運動をしただけでも、脈が乱れたり、疲れたり、動悸がしたりというものです。少しずつそういう状態になっていくと、それが自分の身体の状態だと思ってしまうので、なかなか病気の症状だとは認識しにくいんですよ。
スミス・沢 ええ、私も娘がまだ小さかったので、夜泣きが原因で睡眠不足気味でしたし、子育てで疲れているのかなと思っていました。それにイギリスから日本に移り住んだ上に、日本でも引っ越しを2回しましたしね。何度も環境が変化したので、そのストレスのせいもあるのかなと。
できれば手術はしたくなかったので、「薬での治療はだめですか?」と先生に相談したところ「難しい」とおっしゃったので、本当にショックでした。
スミス・沢さんは、地元の医師から紹介され、慶応義塾大学病院に転院。四津先生の治療を受けることとなる。もともと手術には消極的だったスミス・沢さんだったが、四津先生から心臓の手術について詳しい説明を聞くうちに、手術を受けることへの意志を固めていく。
四津 私は、弁膜症の患者さん全員が手術を受ける必要はなくて、手術をしなくてはならない人だけが受ければいいと考えています。実際に手術が必要かどうかについては、内科の先生などを交えた病院内の会議で話し合って、その患者さんにとってどういう治療が一番よいかを考えた上で判断します。スミス・沢さんの場合は、心エコーとカテーテルの検査結果を見た内科の先生からも、内科的治療では難しいだろうと言われました。そこで、スミス・沢さんに、手術を受けた方がよいのではないかとお伝えしたんです。
スミス・沢 正直なところ、当初は手術は受けたくないと考えていました。でも先生のお話を聞いたら、手術を受けようときっぱり思えたんです。
四津 当院に最初に来られてから、約1か月で手術をしました。決意されてからは早かったですね。
スミス・沢 手術をすると一度決心したら、今度は早く手術を済ませて元気になりたいと思うようになって。最初に心臓の手術が必要かもしれないことが分かった時には、イギリスで手術を受けることも考えました。専門的な医療用語は、日本語だと理解できませんでしたから。でも、四津先生がやさしそうな雰囲気だったのと、英語で丁寧に説明してくださったので、とても安心しました。ですから、先生に手術をお願いしようと決めたんです。
四津 手術をするにあたって、心臓弁の治療方法についてもじっくり話し合いましたね。可能であれば、自己弁を残してその形を修復する『弁形成術』で治療を行ない、もし自己弁を取り替える『弁置換術』の必要性がある時は、生体弁と機械弁のどちらにするかということを検討しました。
スミス・沢 先生のお話を聞いた上で、私の第一希望は『弁形成術』。そして『弁置換術』の場合には、生体弁にしたいと考えていました。機械弁を選んだ場合、ワーファリンをずっと服用しなければならないということに抵抗があったんです。私はできればまた子供を産みたいと考えていますので。それに、よく海外旅行をするので、旅行中に薬に煩わされたくないという気持ちもありました。あと、機械弁だと、飛行場の金属探知器で「ぴーっ」っと鳴る気がして(笑)。
四津 機械弁の素材は金属ではありませんので金属探知器は鳴らないのですが、機械弁は心臓に入れた後カチカチという小さな音がするので、気になるという方はいらっしゃいます。
スミス・沢 確かにその音のことも、気になりました。子供の時に読んだ「ピーターパン」に登場する時計を飲み込んでしまったワニみたいな気がして。それから納豆が大好きということも、生体弁に決めた理由のひとつですね。
四津 生体弁と機械弁のどちらを選ぶかは、最終的には患者さんご自身の人生観が関係してくると思います。スミスさんのように、赤ちゃんが欲しいという女性の場合は、生体弁になりますね。
弁を取り替えることになった場合は生体弁を使う、というスミス・沢さんの意思を確認して、四津先生は手術を開始する。
スミス・沢 朝から夕方までの長い手術でしたが、私はずっと夢の中にいて。目が覚めると、手術はもう終わっていました。でも主人にとっては、1日がとても長く感じたようです。手術の後、別室に通してくださった先生が汗びっしょりのまま「手術は成功しました。」とおっしゃったのですが、それを聞いた時は心から感謝の気持ちでいっぱいになりました。それと、手術の8日後に退院したのですが、その日はちょうど娘の誕生日だったので、娘への最高の誕生日プレゼントになったことも、嬉しかったです。
四津 最近の調子はいかがですか?
スミス・沢 今では、手術をする前よりも元気になった気がします。主人は、私があまりにも元気なので、「心臓手術を受けた人にはとても思えない」と、びっくりしているんです。会社の人も「心臓の手術をして大変でしたね。今はもう大丈夫なんですか?」と心配してくださるんですが、私自身は「いつ手術したんだっけ?」と思うぐらいなんです。
四津 それはワーファリンを飲んでいないから、なおさらでしょうね。生体弁を植え込んだ人は薬を飲み続ける必要はないので、元気になってしまうと日々の暮らしの中では手術したことを意識しないで済むと思います。一方で、機械弁を入れて毎日ワーファリンを飲んでいると、その度に自分は心臓の手術をしたということを思い出してしまいますから。
スミス・沢 先日、温泉に行った時は、水圧で心臓を圧迫してしまうのではないかと気になって、胸の下までしかつからなかったんです。
四津 そんなの全然問題ないですよ。心配せずに、温泉もスポーツもしっかり楽しんでください。
家族の愛に支えられ、手術を乗り切ったスミス・沢さん。 今では、元気に娘さんと遊んだり、地元の小学生や地域の主婦に英語を教えるなど、充実した日々を過ごしている。 スミス・沢さんは、四津先生から十分に行なわれたインフォームド・コンセントによって、手術を受けようと決断するに至った。では、それは、いったいどのような内容だったのだろうか?
(後編につづく)
